五十の手遊び 佐藤拓夫のライター徒然草

2022年5月に50歳になるのを機にエッセイをしたためるブログを始めました。10年続いたら祝杯をあげよう。

いま読み継がれるべき佐藤泰志

20年くらい前の2月、青春18切符を使って北に向かったことがあった。目的地は北海道。道内を鉄路でひととおり周りながら、北の開拓者たちが残した土地の余韻や名物を味わいたい。そんな無計画な旅だったのだが、どうしても外せないと思っていたのが、作家・佐…

ライティングの“神動画”を紹介したい

日本の一部の大学では「ライティングセンター」なるものを設置している。目的は学生の文章作成をサポートすること。なぜ大学がこのような活動をしているかといえば、日本の(公立)学校では日本語の文章作成の基礎を丁寧に教える機会が決定的に不足している…

人間がわからない

タイトルはもちろん水原一平元通訳についてだ。通訳として山の頂にのぼり、幸せな半生を享受していたというのに。一番大切な人の財産をギャンブルの負けの支払いにあてたばかりか、賭けでえた勝ち分は自分の懐(口座)に入れていたそうだ。しかも水原は、大…

売れない美術作品は「ゴミ」なのか?

「世の中の展覧会の85%はゴミ」 アートライターを志す身としては、ドキッとさせられる言葉だ。雑感を書いてみよう。 artnewsjapan.com 多くの場合、展覧会の印象の良し悪しは、展示作品の良し悪しに比例する。したがってジェリー・サルツが吐き捨てた言葉「…

ジュリアンと加守田、二つの巨星を益子でみる

栃木県益子町の益子陶芸美術館 で開催中の展覧会、「ジュリアン・ステアと加守田章二」(4月7日まで)を取材した。記事はいつものように美術展ナビに掲載していただいた。 artexhibition.jp 東京から車で2時間ほどというアクセスの良さもあり、益子の知名度…

春なのに、虚しくなる〜大谷翔平とアテンションエコノミー

大谷翔平選手の元通訳、水原一平にまつわる記事が氾濫している。どの記事も執筆のトーンは同じで、「もし」や「たぶん」や「おそらく」ばかり。確たる証拠がまだない状態なので仕方ないとはいえ、よくもまあ憶測であることないこと垂れ流せるものだ……と呆れ…

光線画の世界に酔う展覧会を取材した

那珂川町馬頭広重美術館で開催中の「タイムスリップ明治-夭折の絵師井上安治の「東京」-」を取材した。記事は美術展ナビで読める。 artexhibition.jp 井上安治は、明治の浮世絵の大家・小林清親に15歳で弟子入りし、17歳で画工(浮世絵の下絵を描く職人)…

Hello again

昨年夏に一時停止した「書く仕事」を師走に再開して2ヶ月。ようやく、やっと、かつての感触を取り戻しつつある。ライターを自称しているにもかかわらず、書いておカネをもらうという営みから離れた数ヶ月。どうやって生きていたかといえば、基本は寝て起き…

傍観者として朽ち果てていく人生

言葉に表せないほどの艱難辛苦を前にすると、人はよく「神も仏もない」とこぼす。神や仏を信じている人ほど神や仏のせいにしたくなるのかもしれないが、無理もないことだと思う。今回の地震*1で自分自身とことん困惑しているのは、途方に暮れたくなるほどの…

「読書のマチズモ」は本当か?

齢五十を超えたライターでも、初めて知る言葉はたくさんある。2023年に私が学んだ言葉は「マチズモ」だ。市川沙央の芥川賞受賞作品『ハンチバック』を読んで、私はこのカタカナ言葉に出会った。市川さんがどのような人であるか、また『ハンチバック』が何を…

検索から解放される「書棚」

相変わらず本はよく買うし、借りている。最近は仕事のペースを遅くしたこともあり、読書の時間がかなり増えた。そんな私が「在庫の検索ができない小さな本屋が好きだ」と気づいたのはここ数年のこと。少し意外だった。なぜなら、私はアマゾンと図書館のヘビ…

なにかを暗示しているのだろうか?

やけにリアルな夢だった。セリフもはっきり聞こえた。夢はあまりみないのだが、なかなか印象的だったので、文章を肉付けし、ひとつの物語に仕立ててブログに書き留めておこうと思う。物語の背景、登場人物の名称や特徴などの細かい描写はもちろん後付だ。 太…

自分だけのチカラで生きていくことの難しさ〜日本の「自立」の現状

偶然目にしたこの動画に目が釘付けになった。 youtu.be 引きこもっている人を外の世界に連れ出す仕事は現代日本ならではかもしれない。日本が引きこもり大国であることは、「Hikikomori」という言葉が海外の精神医学の講義で専門用語として使われていること…

ライターとは無縁の世界で起きた《仕事のジレンマ》について考えてみる

すごい記事である。今、仕事で壁にぶつかっているせいかもしれないが、表皮をつきやぶって心臓のあたりまで届く威力があった。 www.ktv.jp 「大量殺人犯の命を助けること」が自分の仕事だと知ったとき、どのような態度を取るべきなのだろう。自分の仕事が、…

《カケルスクール詐欺事件》をめぐる若干の考察(Part 2)

昨年の12月に、ライタースクール《カケルスクール》をめぐる詐欺事件に関するエントリを書いた。 hatesatetakuo.hatenablog.com 前回の記事から10ヶ月、事件から1年が経過したのを機に、あらためてカケルスクール事件を振り返ってみたい。 *** カケルスク…

エモく書かずにエモくする

こういう記事にときどき出会えることが海外のコラムの面白さだと思う。執筆者は『ザ・ニューヨーカー』のスタッフライターであるルイーザ・トーマス。 www.newyorker.com 内容を知りたい向きは、翻訳アプリを使って文章の雰囲気だけでも感じてみてほしい。Go…

寂しいニュースが届く夏が嫌いだ

2つ立て続けに残念なニュースが届いた。 「大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が、右肘の靭帯損傷。投手としての今期出場が終了」との一報。先発ピッチャーとしてここまで10勝をあげている大谷選手。打撃は好調で、日本人初のホームラン王も十分狙えるとこ…

お盆になると思い出す父の手紙

大学を卒業してしばらく経ったころ、お盆で帰省した私に亡父が手紙をくれたことがあった。夕飯を食べ終えて食器を片付けようと立ち上がったとき、「ちょっとこれ、読んでみてよ」と唐突に封筒を手渡してきた。父はそれきり何も語らず、便箋を食卓の上に広げ…

馬頭広重美術館の取材で思い知らされた《学芸員》という存在の影響力

栃木県那珂川町の馬頭広重美術館で開催している「旅する大津絵展」を取材し、学芸員から詳しくお話をうかがった。記事は美術展ナビで読める。 artexhibition.jp 驚いたのは、本館には学芸員が3名しかいないということ。年間8回ほどの企画展を開催すること…

才能の塊のような人間が若くして死ぬこと。その意味に思いを馳せる夏がまた来る

足利市立美術館の「顕神の夢 霊性の表現者 超越的なもののおとずれ」は、実に愉快な展覧会だった。8月17日まで開催しているので、近くに出かける人は見逃してはいけない。会場には不思議な空気が流れていた。神仏画や霊性を描いた作品を中心に展示している…

手書きとキーボード。アナログとデジタル。スタイルの違いは文章にどう影響する?

令和5年度の司法試験が7月12日から16日まで実施された。受験した方は脳と体、そして心もフル駆動し、全身全霊で戦い抜いたことだろう。いまは疲労困憊で何も考えられないだろうが、とにもかくにも「お疲れ様」とねぎらいの言葉を送りたい。 司法試験の論文…

雨の日の記憶〜サッカー少年と鬼コーチ

雨模様が続く7月。日本の梅雨は年々熱帯化し、土砂災害と高温多湿のせいで不快指数マックスになる。一方で雨は、私の荒んだ心の中にわずかに残る瑞々しい記憶を思い出させてくれるきっかけにもなる。梅雨の雨空を見あげるたびに思い出すのは、必死にサッカー…

あきらめた人、あきらめようとしている人へ送る言葉

司法試験の受験をあきらめた人のブログを読むのがなんとなく好きだ。かつての自分の姿を重ねて読めるということが理由の一つだがそれだけじゃないと思う。文章から滲みでるどこかさっぱりとした諦念がいいのだ。 あきらめの気持ちとどう折り合いをつけるか。…

ライターが「夢のような仕事」になる日はくるか?

スポーツ全般が好きな私だが、選手の経験があるのはサッカーと水泳だけ。ほかの競技は見る専門だ。中でも野球が好きで、ここ数年は大リーグにハマっている。*1 注目しているのは、(言うまでもなく)エンゼルスの大谷翔平選手の活躍ぶりだ。むろん他の日本人…

障害者とアートの関係を考える〜「もうひとつの美術館」が提唱するオルタナティブ・アートの地平

アウトサイダー・アートをメインに作品を収蔵・展示する日本初の美術館、「もうひとつの美術館」を取材した。記事はいつものように美術展ナビに載せていただいた。 artexhibition.jp 美術鑑賞に通じている人なら《アウトサイダー・アート》という言葉を見聞…

仕事と旅の曖昧な関係〜高崎出張の回想

仕事で高崎市にでかけた。高崎は群馬県の中南部にある都市だ。群馬県は私が暮らす栃木県のお隣であり、高崎もそれほど離れてはいないのだが、なぜかこれまで縁遠い街だった。今回、高崎市タワー美術館で開催中の展覧会「比べて見せます!日本画の魅力」を取…

すべてのポートフォリオが消えた夜

ライターが営業するとき、先方にポートフォリオを見せる場合がある。ポートフォリオはこれまでの仕事の履歴や主な実績をまとめたものだ。クラウドソーシングだとポートフォリオの出番はあまりないと思うが、企業やメディアに直接営業する場合、ポートフォリ…

友が待つ佐野へ

私には生涯の宝と決めている1冊の本がある。その本は店では買えないし、図書館で借りることもできない。 本の著者は大竹智浩くんという青年である。彼は私の仕事の相方であり、友だった。 *** 大竹くんは胸ときめかせて入社したはずの星野リゾートを、思…

ラジオ配信を始めてから気づいた即興表現の効果

昨年の10月から、スタンドエフエム(スタエフ)で音声配信(個人のラジオ番組のようなもの)を始めた。 配信といっても動画とは違って難しい技術も道具もいらない。スマホにスタエフのアプリをインストールし、テーマを決めたらアプリの録音ボタンを押して好…

師走になると思い出す、くだもの屋とパン屋のこと

師走になるとときどき思い出す、地元の二軒の店のことを書こう。 一軒目はくだもの屋だ。なじみの肉屋で惣菜を買って帰るとき、通りを隔てて目と鼻の先にあるそのくだもの屋で、私はいつもりんごや梨やみかんといった季節のフルーツをついで買いしていた。 …