五十の手遊び 佐藤拓夫のライター徒然草

2022年5月に50歳になるのを機にエッセイをしたためるブログを始めました。10年続いたら祝杯をあげよう。

ジュリアンと加守田、二つの巨星を益子でみる

栃木県益子町の益子陶芸美術館 で開催中の展覧会、「ジュリアン・ステアと加守田章二」(4月7日まで)を取材した。記事はいつものように美術展ナビに掲載していただいた。

artexhibition.jp

東京から車で2時間ほどというアクセスの良さもあり、益子の知名度は近年すこぶる高まっている。いわゆる六古窯(瀬戸、越前、常滑、信楽、丹波、備前)と比べると歴史はずいぶん浅いが、民芸運動を牽引した濱田庄司が窯をつくり永住してからは、国内外の陶芸愛好家が益子に注目するようになった。春と秋に開かれる陶器市には、全国から数十万人の陶芸ファンが押し寄せて、小さな田舎町が沸騰する。そんな陶芸の里・益子の中心に位置するのが益子陶芸美術館だ。1993年に開館した同館では、これまで数々の刺激的な展覧会が行われてきたのだが、今回の「ジュリアン・ステアと加守田章二」展は近年の白眉といっていい。

現代イギリス陶芸界の顔ともいうべき重鎮ジュリアン・ステア(Julian Stair。1955~)のまとまった作品を日本で観覧できるのは、今回の企画展が初めてである。しかも今回ジュリアンは益子陶芸美術館の国際交流事業として公式に招聘されており、益子に2ヶ月間滞在しながら、美術館にほど近い工房で益子の土を使って作陶した。益子滞在中に開かれたワークショップには、欧米の著名な美術館の学芸員がツアーを組んで訪ねてきて、ジュリアンの作陶の様子を見、話を聞いていた。そんな陶芸家は世界中探しても片手で数えるほどしかいないのではないだろうか。

ジュリアンが滞在中に制作した作品は、美術館敷地内にある濱田庄司旧邸にて展示している(こちらも4月7日まで)。美術館ではガラス越しの展示とならざるをえないが、濱田邸の展示に遮蔽物はない。至近距離でジュリアンのホカホカの新作を鑑賞できる機会は、日本では当分ないだろう。

ジュリアンは現在69歳。作家として円熟を見せつつ、新たな着想をかたちにする試みにも挑戦している。たとえば最近では、コロナで亡くなった人の遺灰を土に混ぜて人型のうつわをつくった。どんな祈りが込められているのだろうか。

www.julianstair.com

加守田章二(1933〜1983)ほど惜しまれて亡くなった陶芸家は稀だろう。異次元の才覚に恵まれた男の仕事は、今ではほとんど伝説化している。死してなお現代の日本陶芸界に波動を送り続けている存在だ。

加守田章二は、すでに土の中にある完成した姿を掘り起こしているだけだ。

そんなふうに想像したくなるほど、加守田のうつわには気安く近づくことがはばかられる《残留思念》のようなものがまとわりついている。下の画像のように「ほとんど物の怪の類では?」とおののきたくなる作品も少なくない。土地の精霊-ゲニウス・ロキ-が憑依し、加守田の手を通じて土の記憶が練りこまれ、ムクムクと顕現しているようだ。

陶芸にかぎらないことだが、美術作品の価値を定めるものは《磁力》だと思う。加守田の作品にも大量の磁力が満ちている。好きか嫌いか、上手いか下手かといった個人的な物差しを超越する、粗暴で得体のしれない吸引力がある。

「なんだかわからないけれど、こいつから目を離せない」

そんな一瞬の出会いを求めてアートをめぐる日々。幸せな仕事だと思う。

 

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