五十の手遊び 佐藤拓夫のライター徒然草

2022年5月に50歳になるのを機にエッセイをしたためるブログを始めました。10年続いたら祝杯をあげよう。

光線画の世界に酔う展覧会を取材した

那珂川町馬頭広重美術館で開催中の「タイムスリップ明治-夭折の絵師井上安治の「東京」-」を取材した。記事は美術展ナビで読める。

artexhibition.jp

井上安治は、明治の浮世絵の大家・小林清親に15歳で弟子入りし、17歳で画工(浮世絵の下絵を描く職人)としてプロデビューを果たすという天才だったが、栄養失調による心不全で26年の短い生涯を終えている。浮世絵師としての活動はわずか9年間だったにもかかわらず、歴史に名を残す佳品を数多く残した。特に光線画の作品は清親の技を受け継ぐ正統派だ。今回の展覧会でも、安治が手がけた傑作をたっぷり堪能できる。

懐かしさと温かさに満ちた光線画の世界

光線画には、旧来の浮世絵にみられるような極彩色の華美な描写はほとんどない。輪郭線を省いたり、遠近感や陰影を丁寧に活用したりと、西洋画の技法で下絵を描いた作品が多い。江戸の浮世絵に親しんでいた当時の人々の目には、とても真新しい芸術と映ったことだろう。しかし現代の我々からすると、どこか懐かしくて、あたたかく静謐な絵と感じる。

井上安治《愛宕山》出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」

井上安治《新橋ステーンション夜》出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」

光線画が描かれた期間は長く見積もっても明治9年から22年で、作品を残した絵師は、小林清親、井上安治、小倉柳村、野村芳国 (2代目)だけ。世に出た作品や論評の数からいえば、光線画は「超マイナー」なアートといっていいだろう。そんな小さなジャンルの中に、美術ファンのツボに刺さる佳品が意外に多く存在しているのが面白い。光線画に特化した展覧会は非常に少ないので、栃木に立ち寄る機会がある人はぜひ観てみてはいかがだろうか。