五十の手遊び 佐藤拓夫のライター徒然草

2022年5月に50歳になるのを機にエッセイをしたためるブログを始めました。10年続いたら祝杯をあげよう。

検索から解放される「書棚」

相変わらず本はよく買うし、借りている。最近は仕事のペースを遅くしたこともあり、読書の時間がかなり増えた。そんな私が「在庫の検索ができない小さな本屋が好きだ」と気づいたのはここ数年のこと。少し意外だった。なぜなら、私はアマゾンと図書館のヘビーユーザーであり、検索機能を毎日使い倒しているからだ。「在庫検索できない」とは、正確に言うと「客が自分で検索できない」という意味だ。大半の書店は在庫管理のパソコンがあるので、そこに目的の書名や作家名を入力すれば当然検索できる。しかし、それにはスタッフに対して「こういう本を探しているので在庫があるか調べていただけますか?」という頼みごとを介在させる必要がある。そのワンクッションがどうにもめんどくさい……。なので、特定の本を早く手に入れたい場合は、アマゾンか図書館を使ってさっさと目的の本を見つけることにしている。

しかし、検索して目的の本を探す過程は、厳密には「本を探している」とは言い難い。目的の書はすでに決まっていて、あとは在庫があるかどうかを確認する作業だからだ。「こういう本がどこかにあるかも?」とさまよい歩く楽しみはそこにはない。偶然の出会いを求めて本屋をたずね、ふらふらと奥深くにわけいり、店主のあつらえた書棚の美醜をふむふむと鑑賞する楽しみ方こそ「本探しの醍醐味」であり、本好きにとってほかに代え難い時間であると思う。そんなゆったりとした探索の旅が体験できるお気に入りの本屋がたった一つあるだけで、人生はけっこう豊かになるのではないだろうか。

ここ何年かのあいだに、私が暮らす宇都宮では、個人の店主が構える小さな書店が増えていて、次の3軒はいずれも得難い存在感を放っている。

私が最近気に入っているのが最後に紹介したイグノブックプラスだ。この店をたずねると、本が大好きな蔵書家の書斎をたずねて、その個性的な書棚をまじまじと眺めているような気分になる。「店」という印象が希薄で、ただただ店主の趣味を反映した色とりどりの本がたくさんある空間。そんな純度の高い気配が、私のアンテナにばっちりヒットした。イグノの書棚を眺めていると、ニヤニヤを抑えるのにとても苦労する。最近イグノで買った本は、宮大工の聞き書きを集めた『木のいのち木のこころ』と、伝説的編集者の自伝『Front Row アナ・ウィンター』。どちらも、棚の一隅にふらりと目線を落とした刹那、偶然見つけたタイトルだ。検索しなかったからこそ出会えたこれらの本は、あの日、あの時間、あのタイミングでなければ一生手に取ることはなかったかもしれない。思いがけないめぐりあいこそが、検索機能を持たない小さな書店の醍醐味である。

 

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