五十の手遊び 佐藤拓夫のライター徒然草

2022年5月に50歳になるのを機にエッセイをしたためるブログを始めました。10年続いたら祝杯をあげよう。

寂しいニュースが届く夏が嫌いだ

2つ立て続けに残念なニュースが届いた。

「大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が、右肘の靭帯損傷。投手としての今期出場が終了」との一報。先発ピッチャーとしてここまで10勝をあげている大谷選手。打撃は好調で、日本人初のホームラン王も十分狙えるところまで来ていた。投手としてここでリタイアするとしても、すでに今季のア・リーグMVPは確実と言われている。だが、どうせなら最後まで投手として勝ち星を重ねてほしかった。

大谷選手は来年30歳になるが、もともとの体力、精神力ともに超人的だ。肘の手術をすれば確実に再起できるだろう。今期のオフでエンゼルス以外のチームに移籍するだろうが、どのような境遇に立とうが変わらず応援していきたい。

(8月27日追記)

大谷選手は投手として登板する機会は失ったものの、あいかわらず打者としては好調を維持している。ニューヨーク・メッツとの連戦では、豪快な2塁打と3塁打を打ち、盗塁も決めて連勝に貢献した。本当に肘を痛めているのかと驚くほかない。敵地での試合にもかかわらず、現地のメッツファンから大きな声援を受けていたのが印象的だった。生き生きと打席に立つ大谷選手の姿をみていると、「君は頑張りすぎだ。ピッチャーの仕事はしばらく休みたまえ」という、天が与えた休息だったのではないかという気がしてきた。

大谷翔平選手が、もし二刀流を断念することになれば、もう二度と、彼と同じレベルで二刀流をこなす選手は生まれないかもしれない。少なくとも私が生きているあいだは。それに、もしかすると、移籍先のチームの意向によっては、いままでのような二刀流は許されないかもしれない。それもまた天命というものだろう。ひとりのファンとしては、大谷選手の活躍をリアルタイムで応援できたことをただただ感謝するほかない。

私には子供がいないから、「昔はね、二刀流で大活躍する大谷翔平という偉大な野球選手がいたんだ。それはもうすごい選手でね……」などと語り継ぐ機会はないだろう。それでもいい。自分の目と耳にしっかりと刻まれた大谷翔平の勇姿は、私の心の中で生き続けるのだから。

そしてもう一つのニュース。こちらのほうが私にはショックで……。往年の名プロレスラー、テリー・ファンクが79歳で世を去った。アメリカ流プロレスのアイコンだったテリー・ファンクは、若い頃からずば抜けて派手でカッコよいレスラーであり、私も彼の大ファンだった。世代的に生で試合をみることはかなわなかったが、テレビ画面上で躍動するテリーの姿は、今の日本のプロレスに見られるような、精緻で計算ずくで様式美に支配されたプロレスとは対極の、粗野で荒削りでテクニックは二の次で、ど根性と執念と肉弾戦だけで観客を興奮させた、まさに《テキサス魂》を体現する唯一無二のレスラーだった。

兄のドリーとともにタッグ「ザ・ファンクス」を組んで日米プロレス界のレジェンドであり続けたテリーだったが、近年は認知症を患い、施設で介護生活を送っていたという。流血戦の常連であり、とことん頑丈な体だったテリーもやはり老いには勝てないのか……。プロレスファンにとって最も寂しさを感じるのは、自分の《推し》が枯れ木のように衰弱し、朽ち果てていくさまを目の当たりにしたときだろう。

テリーの名勝負は無数にあるが、長年全日のマットで激戦を繰り広げたハンセン、ブロディ組との試合映像を。まだ元気なころの馬場さんや「鉄人」ルー・テーズの姿も拝める貴重なものだ。試合終了のゴングがなっても暴れまくり、止めに入る全日の若手選手たちをラリアットでなぎ倒していくハンセンおなじみの狼藉ぶりも懐かしい。

youtube

ハンセンはテリーより少し若い世代だが、テキサスにゆかりのあるレスラー同士、堅い友情で結ばれていた。きっと寂しがるだろうな……。大好きだった馬場さんが、ジャンボが、三沢が逝った。猪木さんもいない。そしてテリー。もしハンセンが死んだら、私のプロレスに対する数々の思い出も情熱も、手の届かない場所に飛んでいってしまうのではないかと、少しだけ怖くなる。歳を重ねると、夏に出くわす訃報がだんだんきつくなる。日差しが強ければ強いほど、名残惜しさも増してゆくからなのか。あんなに好きだった夏が、少しずつ嫌いになる。

 

ご意見・お問い合わせ