五十の手遊び 佐藤拓夫のライター徒然草

2022年5月に50歳になるのを機にエッセイをしたためるブログを始めました。10年続いたら祝杯をあげよう。

考えていること

いま読み継がれるべき佐藤泰志

20年くらい前の2月、青春18切符を使って北に向かったことがあった。目的地は北海道。道内を鉄路でひととおり周りながら、北の開拓者たちが残した土地の余韻や名物を味わいたい。そんな無計画な旅だったのだが、どうしても外せないと思っていたのが、作家・佐…

人間がわからない

タイトルはもちろん水原一平元通訳についてだ。通訳として山の頂にのぼり、幸せな半生を享受していたというのに。一番大切な人の財産をギャンブルの負けの支払いにあてたばかりか、賭けでえた勝ち分は自分の懐(口座)に入れていたそうだ。しかも水原は、大…

売れない美術作品は「ゴミ」なのか?

「世の中の展覧会の85%はゴミ」 アートライターを志す身としては、ドキッとさせられる言葉だ。雑感を書いてみよう。 artnewsjapan.com 多くの場合、展覧会の印象の良し悪しは、展示作品の良し悪しに比例する。したがってジェリー・サルツが吐き捨てた言葉「…

春なのに、虚しくなる〜大谷翔平とアテンションエコノミー

大谷翔平選手の元通訳、水原一平にまつわる記事が氾濫している。どの記事も執筆のトーンは同じで、「もし」や「たぶん」や「おそらく」ばかり。確たる証拠がまだない状態なので仕方ないとはいえ、よくもまあ憶測であることないこと垂れ流せるものだ……と呆れ…

傍観者として朽ち果てていく人生

言葉に表せないほどの艱難辛苦を前にすると、人はよく「神も仏もない」とこぼす。神や仏を信じている人ほど神や仏のせいにしたくなるのかもしれないが、無理もないことだと思う。今回の地震*1で自分自身とことん困惑しているのは、途方に暮れたくなるほどの…

「読書のマチズモ」は本当か?

齢五十を超えたライターでも、初めて知る言葉はたくさんある。2023年に私が学んだ言葉は「マチズモ」だ。市川沙央の芥川賞受賞作品『ハンチバック』を読んで、私はこのカタカナ言葉に出会った。市川さんがどのような人であるか、また『ハンチバック』が何を…

自分だけのチカラで生きていくことの難しさ〜日本の「自立」の現状

偶然目にしたこの動画に目が釘付けになった。 youtu.be 引きこもっている人を外の世界に連れ出す仕事は現代日本ならではかもしれない。日本が引きこもり大国であることは、「Hikikomori」という言葉が海外の精神医学の講義で専門用語として使われていること…

手書きとキーボード。アナログとデジタル。スタイルの違いは文章にどう影響する?

令和5年度の司法試験が7月12日から16日まで実施された。受験した方は脳と体、そして心もフル駆動し、全身全霊で戦い抜いたことだろう。いまは疲労困憊で何も考えられないだろうが、とにもかくにも「お疲れ様」とねぎらいの言葉を送りたい。 司法試験の論文…

あきらめた人、あきらめようとしている人へ送る言葉

司法試験の受験をあきらめた人のブログを読むのがなんとなく好きだ。かつての自分の姿を重ねて読めるということが理由の一つだがそれだけじゃないと思う。文章から滲みでるどこかさっぱりとした諦念がいいのだ。 あきらめの気持ちとどう折り合いをつけるか。…

障害者とアートの関係を考える〜「もうひとつの美術館」が提唱するオルタナティブ・アートの地平

アウトサイダー・アートをメインに作品を収蔵・展示する日本初の美術館、「もうひとつの美術館」を取材した。記事はいつものように美術展ナビに載せていただいた。 artexhibition.jp 美術鑑賞に通じている人なら《アウトサイダー・アート》という言葉を見聞…

言葉を深める《学び》に向き合う覚悟はあるか

人間は生まれ落ちた境遇によって人生を少なからず左右される。これはあらがえない現実だろう。 もっとも自らの境遇に振り回されること自体はさほど問題ではない。肝心なのは、右に左に振り回されるままにせず、どうにかして元に戻してやろうとする意思と行動…

今日「ライターになる」と決意したら、私はどんな準備をするか

私が今日「ライターになる」と心に決めたとする。いったい何から始めるだろうか。思いつくままあげてみる。 1.「ライター 仕事」で検索してみる ライターとして仕事をし金を稼ぐのだから、最初に《ライター 仕事》と検索するだろう。 すると、クラウドソーシ…

文章の4大元素を使いこなす

「あの人の書いた文章って、すごく熱いよね!」 「さすが、〜さんの評論は鋭い」 「この小説、表現がとてもしっとりソフトで、私の好みだわ」 そんな感想を抱いた経験があるだろう。 文章には熱や湿り気があり、明るさや華やかさがある。これらは、温度、湿…

叔父の骨を拾って考えた、私に与えられた猶予と人間の尊厳について

86歳で亡くなった叔父の葬儀に参列した。叔父とは亡父の事務所で机を並べて仕事をしたこともあり、個人的に格別の想いがある。私が事務所をやめてライターになったあとも、ことあるごとに私の身の処し方を心配してくれるなど、とても優しい人だった。 叔父は…

興味の純度を高める

年々、興味の対象が減っていくのを強く自覚する。金はなくても時間はたっぷりあった若かりし頃は、そこに何があるのかはわからないけれど、とにかく身一つで出かけてみるのが習慣だった。 四十を超えてからは、そういう好奇心の暴走がなくなったような気がす…

karpusというニュースレターがいい

ここ2、3年ニュースレターを読むのが毎日の習慣になっている。ニュースレターは非営利のメディアだからか、コンテンツ設計が比較的自由で個性的だ。良い意味でアクが強い。そのため自分の思想や文体的嗜好にフィットすると長く愛読できる。書き手の営業根性…

タバコに支配される生活の虚しさに気づけば、禁煙なんて簡単だ

禁煙に成功したときの小話を書こうと思う。 タバコは高校卒業後もしばらく吸っていたが、あるアクシデントをきっかけにスッパリとやめた。経緯はこうだ。 師走の深更、テレビを見ながらふと手元を確認するとタバコのストックが切れていた。当時の私は深刻な…