五十の手遊び 佐藤拓夫のライター徒然草

2022年5月に50歳になるのを機にエッセイをしたためるブログを始めました。10年続いたら祝杯をあげよう。

2022-01-01から1年間の記事一覧

師走になると思い出す、くだもの屋とパン屋のこと

師走になるとときどき思い出す、地元の二軒の店のことを書こう。 一軒目はくだもの屋だ。なじみの肉屋で惣菜を買って帰るとき、通りを隔てて目と鼻の先にあるそのくだもの屋で、私はいつもりんごや梨やみかんといった季節のフルーツをついで買いしていた。 …

《カケルスクール詐欺事件》をめぐる若干の考察(Part 1)

ライターは知的労働者であると一応みなされている。ここでいう《知的》という言葉は、単に情報を扱い編集するスキルだけを意味しない。情報に操作されない抜かりなさも含んでいる。《ずるがしこいやつに騙されない知性》とでも言えるだろうか。 ところが……そ…

翻訳されない無数の文章への憧れを捨てきれない

ボブ・グリーンというコラムニストがいる。コラム好きの人にとっては「何をいまさら……」と言いたくなるだろう。世界一のコラムニストだと評する人も少なくない。私もそのひとりだ。 ボブ・グリーンのコラム集はほとんど持っているが、なかでも井上一馬さんが…

言葉を深める《学び》に向き合う覚悟はあるか

人間は生まれ落ちた境遇によって人生を少なからず左右される。これはあらがえない現実だろう。 もっとも自らの境遇に振り回されること自体はさほど問題ではない。肝心なのは、右に左に振り回されるままにせず、どうにかして元に戻してやろうとする意思と行動…

「鑑真和上と下野薬師寺」展の取材で得た2つの気づき

過日、栃木県立博物館で開かれている特別展『鑑真和上と下野薬師寺~天下三戒壇でつながる信仰の場~』を取材した。記事はいつものように美術展ナビに載せていただいた。 artexhibition.jp この取材とレビュー記事の執筆の過程で、あらためて大切だなと思っ…

今日「ライターになる」と決意したら、私はどんな準備をするか

私が今日「ライターになる」と心に決めたとする。いったい何から始めるだろうか。思いつくままあげてみる。 1.「ライター 仕事」で検索してみる ライターとして仕事をし金を稼ぐのだから、最初に《ライター 仕事》と検索するだろう。 すると、クラウドソーシ…

文章の4大元素を使いこなす

「あの人の書いた文章って、すごく熱いよね!」 「さすが、〜さんの評論は鋭い」 「この小説、表現がとてもしっとりソフトで、私の好みだわ」 そんな感想を抱いた経験があるだろう。 文章には熱や湿り気があり、明るさや華やかさがある。これらは、温度、湿…

叔父の骨を拾って考えた、私に与えられた猶予と人間の尊厳について

86歳で亡くなった叔父の葬儀に参列した。叔父とは亡父の事務所で机を並べて仕事をしたこともあり、個人的に格別の想いがある。私が事務所をやめてライターになったあとも、ことあるごとに私の身の処し方を心配してくれるなど、とても優しい人だった。 叔父は…

興味の純度を高める

年々、興味の対象が減っていくのを強く自覚する。金はなくても時間はたっぷりあった若かりし頃は、そこに何があるのかはわからないけれど、とにかく身一つで出かけてみるのが習慣だった。 四十を超えてからは、そういう好奇心の暴走がなくなったような気がす…

karpusというニュースレターがいい

ここ2、3年ニュースレターを読むのが毎日の習慣になっている。ニュースレターは非営利のメディアだからか、コンテンツ設計が比較的自由で個性的だ。良い意味でアクが強い。そのため自分の思想や文体的嗜好にフィットすると長く愛読できる。書き手の営業根性…

ピンホールの魔術師をたずねて

栃木県立美術館で開催中(9月4日まで)の『山中信夫回顧展』を取材した。記事は美術展ナビに載せていただいた。 artexhibition.jp 山中信夫は1948年に大阪で生まれ、1982年にアメリカで客死した写真家である。創作活動に打ち込んだ期間はわずか12年ほどだっ…

栃木市立文学館と蔵の街の取材で思い出した、宇都宮景観論争をめぐる苦い体験

栃木県の県庁所在地は宇都宮市なのだが、もとは県南の街、栃木市に県庁があった。「名前が栃木市なのだから、栃木県の県都とするのは自然ではないか?」と思うだろう。そういう理由もあるにはあるが、本質はそうではない。 栃木市は例幣使街道の宿場町という…

美術展ナビのコラム「図録開封の儀」を紹介したい

昨年12月から、読売新聞社が運営するアート情報メディア『美術展ナビ』に、美術展の図録を紹介する『図録開封の儀』というコラムを寄稿している。 美術展ナビは、国内の美術展情報を中心に、アート情報を幅広く紹介するサイト。美術展のレビューや著名人のコ…

一度しか着なかったオーダースーツ

蒸し暑くなったので一気に衣替えをしたところ、クローゼットの奥から一着の真新しいスーツがでてきた。 ライターを生業とする私は、一日のほとんどを自宅の書斎で過ごす。だから服装に頓着しない。取材で人に会う時もジャケットとチノパンで乗り切ってきた。…

辻仁成さんの文章教室のこと

芥川賞作家・辻仁成さんが主催する文章教室をご存知だろうか。昨年の春以来4回開催され、今後も不定期に継続を予定している。 辻さんは、自身が運営するブログサイトで日々文章を書き、ツイッターと連携するなど、読者との交流を欠かさない方だ。人気作家と…

タバコに支配される生活の虚しさに気づけば、禁煙なんて簡単だ

禁煙に成功したときの小話を書こうと思う。 タバコは高校卒業後もしばらく吸っていたが、あるアクシデントをきっかけにスッパリとやめた。経緯はこうだ。 師走の深更、テレビを見ながらふと手元を確認するとタバコのストックが切れていた。当時の私は深刻な…

書けなくて泣いたこと、ありますか?

「記事や文章が書けなくて泣いたこと、ありますか?」 私は一度だけある。出版社の編集者兼ライターとして文章を書いていた頃のことだ。 テーマやあらすじは用意できているし下調べも完璧。でも文章にならないし、言葉が浮かんでこない。日本語らしき文章を…

生存報告をかねたエッセイブログ

令和4年5月、五十路に足を踏み入れる。50歳といえば、江戸時代なら死んでいてもおかしくない年齢だ。ずいぶん遠回りと寄り道をしてしまった。 還暦まで10年ある。特に浮き沈みも凹凸もない凡庸な人生だが、しがないライターとして、なにか生きた証を残してお…