五十の手遊び 佐藤拓夫のライター徒然草

2022年5月に50歳になるのを機にエッセイをしたためるブログを始めました。10年続いたら祝杯をあげよう。

今日「ライターになる」と決意したら、私はどんな準備をするか

私が今日「ライターになる」と心に決めたとする。いったい何から始めるだろうか。思いつくままあげてみる。

1.「ライター 仕事」で検索してみる

ライターとして仕事をし金を稼ぐのだから、最初に《ライター 仕事》と検索するだろう。

すると、クラウドソーシングサイト(ランサーズやクラウドワークス)と呼ばれる仕事募集サイトがあって、多くのライターはそこに登録して仕事をもらうのだなと知るだろう。でもたぶん、いきなり仕事募集サイトには近づかないと思う。

2.日本語の基礎力を固める

では何から着手するかといえば、日本語の基礎的能力のブラッシュアップだ。例えば、手元にある辞書を毎日読む。語彙を増やせるし正確な解説文も参考になる。類語辞典は必読だ。

それから、毎日図書館に行って新聞をすみずみまで読むだろう。新聞は厳格な校正校閲を経ているので、じっくり読むと標準的な日本語表現と社会常識が身につく。

3.季刊誌を読む

辞書、新聞の次は雑誌だ。雑誌は玉石混交である。とくに週刊誌は誤植が少なくないし、間違った/偏った情報を放置していることもあるので、気になる特集しか読まない。ライターとしてのスキルをあげるために週刊誌を熟読することはないだろう。

積極的に読みたいのは季刊誌だ。年4回しか出版しないので「失敗できない」という緊張感がある。少ないチャンスで他誌との差別化を図るためには、世の中の移り変わりをよみ、読者が読みたい情報を的確にとらえた工夫が欠かせない。webライティングにおける《コンテンツライティング》とは何かを知るためにも、季刊誌は優れた教材になる。

4.SEOやコピーは後回し

色々調べていくうちに、《SEO》とか《コピーライティング》とか、ライターの仕事を支えるリテラシーがいくつかあることも知るだろう。

ただ、それらに手をつけるのはずっと後になると思う。日本語がしっかり書けることのほうがはるかに重要だからだ。

5.小説やエッセイは大量に読む

単行本はエッセイや小説をたくさん読むだろう。私は芥川賞・直木賞の受賞作品を欠かさず読んでいる。単純に小説が好きだからだが、ライティングへの目に見えない恩恵ははかり知れないと感じている。

小説やエッセイの文章はライターの文章とは違う。例えばSEOライティングで不可欠な《論理性》は、小説やエッセイだと軽視される。自分に酔っている文章や古臭い表現も少なくない。そういったマイナスを考慮してもなお、日本語表現のバリエーションや美的感覚に習熟したいなら小説やエッセイは必読だ。

国内の作品だけでは飽き足らず、海外作品の翻訳本もたくさん読むだろう。ブッカー賞や全米図書賞の受賞作品は欠かせない。

翻訳家は日本語のプロ。癖のある外国語を中庸の日本語に書き換える手腕は見事だ。原書と翻訳書を並べて読めば、外国語の学習になるのはもちろんのこと、外国語の表現方法(例えば結論や修飾節をどこに置くか)と日本語のそれを比較する教材にもなる。

6. webメディアのチェックとwebライティングの勉強、そしてクラウドソーシングの登録は最後の最後

webに流れている文章をライターの教材として読むのもありだ。ただし、それは上にあげた習練を通じて日本語の文章スキルをがっちり固めた後の話である。

web上の文章には固有の作法がある。わかりやすく解説してくれるネット記事や書籍も多い。その大半はSEOライティングだ。検索エンジンに気に入られるためのライティングである。

SEOライティングの作法にはいつの時代にも変わらない基礎がある。読者のためになる、読者が読みたいと思う情報を与えるということだ。それ以外のテクニックはあまり重要ではない。

そもそもライティングだけで検索順位を上下させることは極めて難しいことだ。メディアのエンジニアやデザイナーが知恵をしぼり、様々な工作を施すからこそ検索順位が上昇するのである。

ツイッターでは「私の書いた記事が●●というキーワードの検索順位でトップになりました!」などとドヤ顔で自慢している人がいる。全く無意味なことだ。

検索順位は相対的なもの。競合サイトの順位が下がればその反動で自サイトの順位は上がる。また質の高い外部リンクとのつながりやファンの多さなど、サイト自体が持つパワーも検索順位に影響する。そういった複雑な要因により検索順位は上下するのであって、記事一本書いたくらいで検索順位を自在に操ることは不可能なのである。

ただ、webメディアの文章には固有の作法があることは知っておいて損はない。典型はPREP法だ。結論→理由→具体例と並べ、最後に結論で締めくくるという文章構成である。せっかちなwebの読者を記事から離脱させないためのテクニックだ。

もっともPREP法が通用しないこともある。エッセイやコラムをPREP法で書くと実に味気なくなる。インタビュー記事はむろんPREP法だけでは表現しきれない。

このように、webの世界に現在普及している文章作法は効果が曖昧なものもある。以前は通用したお約束が陳腐化することはしょっちゅうだし、メディアによっても使う手法は異なる。

私たちライターの主戦場はwebであるが、だからといってwebライティングにばかり執心していてはいけないということだ。

ライターの仕事は文章を書くこと。とてもシンプルであり、だからこそ難しい挑戦だとも言える。

だから私が今日「ライターになる」と心に決めたなら、とにかく自分の文章力をあげることに集中するだろう。上にあげたような取り組みを重ね、日本語の文章をしっかり書けるようトレーニングする。

日本語の文章スキルが安定したことが確認できたら、そこで初めてwebメディアをチェックし、webライティングのルールを学ぶ。そうやってwebライターとしての基礎体力を身につけたら、最後にいよいよクラウドソーシングだ。ランサーズやクラウドワークスに登録して、自分ができそうな案件にバンバン応募する。

番外編:ブログを書く

ブログに限らないが、自由に自分の意思で文章を書ける場をつくることは、ライターの基礎力を醸成する特効薬だ。このエッセイブログを立ち上げたのも、文章力向上が狙いの一つにある。

ただし、誰かに添削してもらえる環境がない場合、注意が必要だ。間違った文章を「それは間違いだ」と気づかないまま放置すると、いざ仕事を始めたときに混乱する。

したがってライター修行の場としてブログを活用するなら、自分の書いた文章が適切な日本語で書かれていることを自分で判断できることが条件となる。ライターと編集者、一人二役を演じるのだ。副詞や助詞の使いわけをろくに知らないのに、ただブログを書きなぐるのは悪手である。まずは手本となる文章を大量に読み、日本語の表現の引き出しを蓄えることを優先すべきだろう。

ライタースクールの利用を検討する前に

ライター向けのスクールがたくさんあるので、初心者の方は迷っていることだろう。スクールを利用しても構わない。もしいい先生に出会えたら、独学よりも効率よく成長できるだろう。

しかし、上記のとおり、スクールに通わなくてもやれることはたくさんある。また、スクールではむしろできないことも多い。

ライターの仕事はライティング。文章を書くことである。その部分をおろそかにして、マーケティングや画像作成、タイトルのつけ方といった周辺のスキルにばかり執着していると、いつまで経っても文章力はあがらない。文章力をあげることに正面から向き合う時間をどれだけ確保したか。それこそが、ライターとしての基礎体力に直結するのだと理解しておこう。