五十の手遊び 佐藤拓夫のライター徒然草

2022年5月に50歳になるのを機にエッセイをしたためるブログを始めました。10年続いたら祝杯をあげよう。

《カケルスクール詐欺事件》をめぐる若干の考察(Part 1)

ライターは知的労働者であると一応みなされている。ここでいう《知的》という言葉は、単に情報を扱い編集するスキルだけを意味しない。情報に操作されない抜かりなさも含んでいる。《ずるがしこいやつに騙されない知性》とでも言えるだろうか。

ところが……そんな知性の持ち主であるはずのライター(正確にはライターの卵)が、数十人数百人単位で詐欺師の罠にまんまと引っかかってしまう事件が起きた。まだ警察の捜査対象になっていないので正確には事件と呼べないのだが、実質的には詐欺事件といっていいだろう。本記事ではこの事件を《カケルスクール詐欺事件》と呼ぶことにする。

ツイッターなどの書き込みによると概要は次のとおりだ。

  • 編プロ出身を自称するY氏(株式会社諸花代表取締役)が2022年3月にライター養成スクール事業『カケルスクール』をスタート
  • 同スクールでは、生徒に12回のビデオカリキュラムを受講してもらい、その後スクールから生徒に課題記事を与え、添削担当の講師がフィードバックを行うことで、ライター志望者にスキルを身につけさせることをうたっていた
  • カリキュラム終了後は月2本程度の課題を執筆させ、それをクリアできたら毎月30本程度の案件をスクール経由で依頼する。記事1本の報酬は1文字10円または1本平均1万5千円
  • 以上のプログラム全体セットの受講料は27万5千円。カリキュラム終了後の受講料は月3万3千円

被害者である生徒の多くが《1文字10円または平均1万5千円の案件紹介》になびいて契約したことはあきらかだろう。

ところが、9月に入りいよいよ本格的な案件紹介が始まるという段階で、Y氏がLineで突然廃業を宣言。Y氏が生徒に向けて行ったフォローは、廃業の経緯を説明する15分のZoomだけ。その後Y氏は生徒からの問い合わせをシャットアウトし、ツイッターやLineのアカウントを削除。現在まで音信不通になっている。案件の執筆報酬をあてにして高い受講料を払っていた生徒にとっては、まさに寝耳に水の出来事だったろう。なかには借金して受講料を払っていた生徒や、記事を納品していたものの報酬をもらえなかった生徒もいたという。

説明会でY氏は「これからただちに破産手続きを進める。生徒には資産を分配する」と説明していたが、まる2ヶ月経過した現在になっても進展はない(そもそも生徒との連絡手段を絶っているので、進捗状況を一切把握できない)。会社所在地等にもY氏の姿はなく行方不明の状態である。

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私がこの一件に気づいたときには、すでにカケルスクールは廃業を宣言していた。ただ10月1日に行われたZoom説明会には間に合ったので視聴することができた。

パソコン画面の向こうでY氏は、神妙な顔つきでお決まりの言い訳を重ねるだけだった。

「直前まで事業継続するつもりだった。しかし資金繰りが悪化し、やむなく廃業するに至った。申し訳ない」

ズームの最中、コメント投稿はできない設定になっていた。これはやましさの現れだろう。生徒からの質問で矛盾点を突かれてしまい、詐欺の意図がバレることを危惧したのだと思われる。

私が特に気になったのは、Y氏が「資金融資をかたる詐欺の被害にあった」と言っていたことだ。詐欺被害の実態については一切説明はなかった。まるで、その融資詐欺の被害さえなければ現在でもスクールを継続できていたかのような口ぶりであった。Y氏は「詐欺被害について奈良西警察署に相談している」とも説明していたが真偽は不明である。

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現在までの事実関係の概要は以上のとおりだ。ただしY氏以外にも、スクールの営業を担当した会社や、スクールで講師役を務めた人間など、複数の関係者が存在する。いずれもこの事件については逃げ隠れるような態度に終始している。

Part 2では、以上の事実関係を前提に、なぜこのような事件が起きてしまったのか考察する。

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